王子様と野獣
私が押し黙っているのも気にせず、遠山さんは大きなフロアの端を、説明しながら歩いていく。
「私たちの島の隣は営業。区域ごとに一課、二課、……と別れているの。その向こうが管理部門。マンションの施設維持のための部署ね。田中不動産は首都圏の土地を多く持っていて、マンション経営が事業の主流なの。これらの部署がメインにかかわって仕事してるわけ。で、最近は持ってる土地だけじゃなくて、もっといろんな事業をしようって風潮が高まっているんだ。いわゆる空き部屋問題に困っているアパートオーナーの土地建物を買い取ってうちのノウハウで売り出したりとかね。本部長が主導となって、新しい風を吹かせているんだよ。で、うちの部署もその中の一つなの。土地開発部門。いわゆる価値のない土地を安く買い取って、との土地全体の開発計画を立てて、地価を上げていこうっていうような仕事なの」
一気にまくし立てられたけど、全然頭に入らないな。
曖昧な返事をしていると、遠山さんは「じゃあこのフロアはおわりね」と明るく言って、廊下に私を引っ張り出した。
まだ朝の早い時間だから、廊下はあまり人の気配がない。
遠山さんは急ににやにやと笑いだすと、腕に抱き着いてきた。
「ところでー! ねぇねぇ、馬場主任と知り合い? どういう関係? 美麗ちゃんのあの顔、すっごいウケるんだけど!」
「え? え?」
いきなり話題が変わって、私は驚きしかない。