王子様と野獣
「なにしてんの、母さん。モモを離して」
呆れた声に顔を上げると、スーツ姿のあさぎくんだ。
茜さんが私を離した途端に、あさぎくんは私の隣に座る。
「どうしたの浅黄。仕事は?」
「外回ってて、近くまで来たから寄ってみた。実はちょっと頼みがあって。ここで飲みの予約ってできるかな。今度の土曜の夜なんだけど」
「うちは飲み屋じゃないからなぁ。どういう集まり?」
「会社の元同僚とか……合計八人くらいかな。ひとりは妊娠中だし、派手に騒ぐことはないと思うんだけど」
「聞いてみるわ」
茜さんは厨房に下がって言っておじさんと相談している。
「モモもその日、空いてるよね?」
おや、八人には私も入っているらしい。
「私も?」
「遠山さん……今は杉原さんだけど、用事があってこっちに来るんだって。田中さんがみんなで集まりたいって言うから。食事中心にしたいみたいだし、時間設定も早めだからここで飲もうかなと思ったりして」
「遠山さんが? 会いたいっ。会いたいです!」
「メンツは遠山さんとその旦那さん、田中本部長、田中さん、阿賀野と瀬川と俺とモモ」
「浅黄ー。いいって。奥の席のところに衝立つけて個室っぽく作ってくれるってー」
茜さんが厨房から叫ぶ。
「美麗さんに会えるのも嬉しい、私」
「うん。田中さんにも、絶対にモモは連れてくるようにって言われてる」
楽しみな予定が目の前にできて、私たちは浮かれながら【宴】を出る。
真実の愛を見つけた王子様と野獣は、こんな風に幸せに暮らしています。
多分、これからもずっと。
【Fin.】


