アッファシナンテ

~春川side~


子供のように泣きじゃくる
お嬢様を見て懐かしい気持ちになった。

幼い頃、お嬢様はよく泣いていた。

私の部屋へ来ては
クラスメイトと上手くいかない事を
話しては泣き、両親への気持ちを
吐き出しては泣き、お嬢様の
笑顔を見るよりも泣いている姿を
見る事の方が多かった。

だけど、私が執事になり
屋敷へ戻るとお嬢様はいつも笑っていた。
お嬢様の泣き顔など見た事がなかった。

崎本様と出会われるまで
お嬢様はいつも幸せそうに笑っていた。

だけど、きっと違う。
幸せではなかった。
お嬢様は諦めた。
泣く事を。...気持ちを伝える事を。
受け止める人がいなくなったから。

幼い頃に母親を亡くし
旦那様と離れて暮らし
大人に囲まれ同世代の人間など
いないこの屋敷でお嬢様は
沢山の事を諦めた。
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