人魚のいた朝に
初恋は実らないとよく言うけれど、確立にすると何パーセントの初恋が実り、残りの何パーセントが花を咲かせることなく散っていくのだろう。

眩いほどの恋心さえあれば、いつか結ばれるものだと思っていた。
互いを愛しく想い合う僕らは、死が二人を別つその時まで、当たり前のように同じでいられるのだと思っていた。

だけど恋というのは、人々の願いに反して、叶わずに終わることの方が多いらしい。そのことを、大人になった今になり気づく僕は、彼女のことなんて少しも考えていなかったのかもしれない。

ただ、想うだけでいいと思っていた。
届くものだと思っていた。

「好き」という言葉だけでは乗り越えられないことが、人生には数え切れないほどに溢れていた。



初空が京都に来たあの日、僕は彼女からの問いかけに、答えることが出来なかった。

あの町に帰る。
たったそれだけの答えを、口にすることが出来なかった。

大切な人も、愛している人も、この世界の隅々まで探したとしても、彼女以外に居ないのに。
初空のことだけが、こんなにも恋しいのに。

もしかしたらこの恋は、実らないのかもしれない。
胸の奥底に落ちてきた小さな疑念が、一瞬で全身を食い尽くすような不安になって広がった。



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