人魚のいた朝に

「まだ、忘れられへんのか?」

「・・・ん?」

「だから、誰と付き合っても上手くいかんのか?」

「どうかな」

それが彼女と関係あるのかは、正直わからない。

「だったら、なんであの時」

「・・・」

「・・・」

「・・・自分でも、後悔してるよ」

あの日、僕は分岐点を間違えた。
大切な選択を、見逃してしまった。

「あいつも、後悔しとった」

「・・・うん」

「泣いても泣いても、涙が止まらん言うとった」

「・・・うん」

「なんでお前らは・・・お似合いだって、みんなが思っとったのに」

今でも忘れない。

太陽のように晴れやかな笑顔を見せた後、一人で帰って行く彼女の後姿を。車椅子に乗った小さな背中を忘れられないでいる。

「だけど、初空は幸せになれたから」

「それは、そうだけど」

「初空が幸せなら、それで充分だよ」

初空は去年、めでたく結婚をした。
相手は前に太一が話していた、会社の上司の人だった。
ずっとずっと、初空のことを想い続けていたらしい。
そして彼女も、そんな彼に自然と心を許していった。

「・・・冬に、子供が産まれるらしい」

「初空に?」

「ああ。お盆に帰った時に聞いた。大変だけど、頑張るって笑っとった」

「・・・そっか」

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