運転手はボクだ
「部屋を知ってる訳だ」

え?ん゛ー、どちらのことを言ってるのだろう。
私がさめじまさんの家に行った事は話した、その念押し?
それとも、さめじまさんが私の部屋を知ってるという探り?

「送ってもらったんだろ?」

私の部屋の事だ。

「はい、…私を送って行く事で、千歳君が帰らないでって、言ってた事を諦めてくれました」

「…まずいと思わなかったか?」

え?…親しくなりすぎた事を、だろうか。それとも、まだよく知らない人に住まいを教えてしまった事…?どっちだろ。

「そうですね。あまり、近くなり過ぎるのもと思いました。…私は、もう、会うかどうかも解らないし、今後関わりのない人間でもありますから」

「そう、だな」

はぁぁ。

「あの、私、そろそろ…」

「帰るのか?」

「はい」

用は挨拶をした段階で済んでいる。これは、改めての長居だ…。お茶もいただいた。


「お邪魔致しました」

玄関で頭を下げた。

「関わってもいいんじゃないか?」

「え?」

また、いきなり何を…。誰にって、話だ。…さめじまさん親子にってことだとは思うけど。…まさか…貴方にではないですよね。

「あの…」

「私に」

「はあ?」

そっち?…あっ。

「…フ。ハハハ。外れたって顔だな。鮫島にって、思ってただろ。そんな…、人の心配はしない。それにだ。
鮫島と関われば難しい恋になるって解ってる。それには、ある程度、覚悟がいるだろ?
その点、私は何もない。真っ新の独身だ。もう、私のものにならないか、とも言ってある。どうだ?」

「…はあ?」

…さめじまさんも独身は独身ですが。……恋?貴方の言った事はどれだけ飛んだ話なんです?

「ハハハ。はぁ…まあいい。今日は心遣いを有り難う。余計な事だが、鮫島の家を訪ねなくとも、ここに来れば、朝なり、夕なり、鮫島には会える。ま、時間が合えばだが?」

そんな事までしては…ここに会いに来ない。会いに来る理由もないのに。来る訳ないでしょ。ついでに貴方にだって、会ってしまうでしょ?だったらさめじまさんの家に行くでしょ?…行かないけど。

「失礼します」

「フ、ああ、気をつけてな?」


もう…誰が恋してるって?貴方の押しつけの思いのこと?着物姿が素敵だとつい言ってしまったから気があると誤解させてしまった?
さめじまさんは…、ただ、親切にしてくれただけの人じゃない…。それを恋なんて。しない、しないわよ。人の気持ちを勝手に発展させ過ぎよ…。いじり過ぎ…。
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