運転手はボクだ
・最強の王子様
こんな、知らない人に声を掛けられて、車に乗るなんて…。初めての事だ。
それを簡単にさせてしまったのは、あの運転手さんの人柄って事なのかな…。まあ、結果、こうして無事に降りたけど、基本、知らない人の車には、どんなに誘われようとも乗ってはいけないモノだ。

…あ。いけない…タオル…、どうしようかな。
これっきり、また会うなんて事はない。んー、取り敢えず、持って帰るしかないか…。
使って湿る程の事もなかった。
いきなり降り出した雨をしのぐ軒先が直ぐ目の前にあったから。私の体は、ほぼ濡れていなかった。

あ、運転手さんが出て来た。どうしよう。
…私、まだ居るって、ボーッとしてたって、思われてしまうかな。


「あ、れ?帰らなかったの?」

やっぱり見つかっちゃった。見つかっちゃった、ではないか。

「…どうも。今、帰ろうとしてたところです」

駅舎の方を向いた。どうもって、言うのもどうかと思うけど、こんな時、どうもって、言ってしまう。

「とと?だれ?」

…あ…か、可愛い~~。男の子、かな?…まるで天使だ…。クリクリした眼、なんて愛らしいの~。
運転手さんの胸に顔をつけて抱かれていた体を捻って、指を差された。

「コ、ラ、人に指を差してはいけません」

「はい。ごめんなさい、おばちゃん」

…。

「…コラ、こういう時は、おねえさんだ、モテないぞ?」

「ごめんなさい、えっと…おねえさん」

バタバタと足をバタつかせ、下して、と懇願したと思ったら、足元にしがみつくように抱き着いてきた。

あ。受け止めてあげたくても傘を握っていてどうにもできなかった。

「コラ、危ない。いきなりそんな…おねえさん、びっくりするだろ?ごめんね、驚かせて。こいつなりの全力の謝り方なんだ。…コラ…千歳」

運転手さんがしゃがんではがすようにして抱き上げた。

「大丈夫よ?怒ってなんかないから。おばちゃんでいいのよ?」
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