運転手はボクだ
間違ってなんかない。どう見たって、こんな小さい子から見たら、大人は皆おじさん、おばさんだ。
あ、そうだ。

「あの、お借りしたタオル、どうしたらいいですか?」

会う機会はないから。

「あぁ、そうだな。そのまま今返してくれて構わないよ?」

ん、と、手を出された。

「駄目。お借りして使った物は、そのままでなんて」

「え?」

あ…。あれ?頑なな態度を取りすぎたのかな…?はい、どうも、で良かったのかしら?…そうよね、それを望んでるのに。

「や、あの、ですね。ちゃんと洗って返した方が…」

少しでも使った物をそのまま返すなんて、ちょっと嫌だった。…その人の家とかで使った場合はそのままなんだけど。この部分では矛盾はしてるけど。

「んー、いいよ?別に。そんなに気にしないで」

その方がいいに決まってる。この場で事は終わるんだし。

「…でも」

…。

「とと?けんかしてるの?」

「違うよ?んー、話し合いだ」

「おはなしあい?とと、おなかすいた…」

「ああ、そうだな」

あ、何だか…二人分の視線を感じるんですけど…私のせい?もう帰りたいのに?
長い?強情?
もう、いい加減拘るのはやめろって?渡せば終わりだろ?て。

「この後は、もう、帰るだけ?」

「え?私?あ、はい」

「じゃあ…乗って?」

「え?」

何故?また乗るの?…どうして?

「あ、ちょっと、二人で一緒に乗っててくれる?」

え?はい?決まり?

「チャイルドシート、出すから。悪いけど、千歳と後ろに乗っててくれる?」

「おねえさん!」

あ。足元で、天使が手をギューッと握ってきた。…小さくて柔らかい手だ…はぁ、なんて可愛いの?

「とと、こうしてまってる」

「うん、じゃあ…直ぐ取り付けるからな。大人しくしてるんだぞ?
ごめんね、直ぐだから。車が通るから、手、繋いでやっててくれる?
いつもは帰り際にセットしてからくるんだけど、今日は…イレギュラーだったから。
…よっ、と」

後ろから持って来たシートを手慣れた様子で後部シートに取り付けた。おいで、と言って千歳君を奥のシートに座らせた。

「後ろで千歳と一緒で悪いけど、いいかな?君も乗って?」

「え、あ、はい。あ、でも」

それは構わない。むしろ嬉しい…。でも、何故、私まで一緒に帰る事に?

「おねえさん、きて、のって?」

あ、可愛い笑顔の……甘い誘惑だ。小さな手がおいでおいでと手招きしてる。
フラフラと乗ってしまうじゃない…。


「…あの」

車はまた例の如く、もう静かに走っていた。
私ったら、一度ならず、二度も。簡単に"誘拐"されちゃうって。どうなの?
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