運転手はボクだ

「鮫島さんの言いたい事、何となく解ります。…好きになった人は好きになった人。その人に、自分は子供が居るんだ、と…それだけでも、もしかしたら駄目になるかも知れない。
それだけではなく、…ごめんなさい、実の子ではないと、その事も負担をかけてはいけないと思う気持ち…。一番は千歳君。
千歳君を第一に思うから、自分の思いは思いとして持ちたいのに持てない、持ってはいけないと思う。…複雑に絡むんですよね」

だから、男としての気持ちは優先しない。私も言ってて上手く言えているのか。これでは何も伝わらないだろう。

「…私なら、鮫島さんの事が好き、千歳君も好き。…私なら、そうなります」

…あ。馬鹿。これって例えにはならない。これでは告白になってるんじゃない…?

「羽鳥さんは、うちの事情を最初から知ってます。
…つき合いが始まってから知るのとは違います。そういう家庭だって、知って、こうして今回つき合ってくれました」

…つき合ってくれとは言われていない、そんな、感情を伴わない相手だから。何でもない相手だから、問題は、ない。

「…勇気の問題ですか?」

何を言ってるんだか。違う。それは、好きな人だけど、どうしたらって、その相手に対して考える事であって。

「え…」

「私は、好きでもなんでもない、ただ知り合った他人だから、家庭の事、躊躇なくすんなり話せた。壊れるかも知れないってモノがないからです。
だけど、好きだと思っている人には言えない、そういう事です」

「いや、…それは」

…。

「……まあ、今、居なければ、考えもしないでしょうし、特に悩む問題でもありませんけど。…ね?」

…。


「…よく解らないんだ。これがなんなのか…」

「え?」

「始まってるのか違うモノなのか、なんなのか…だけど、だからと言って…このまま有耶無耶には…」

あ、え…?

「ととー!」

千歳君…。

「あ。千歳…。危ないぞー?」

こっちに向かって駆けていた。後を奥さんがついて来ていた。

「ま、待って…。ち、千歳君…は、あ。おうちで待ってようって、…はぁ、言ったんだけど。…はぁ、行くって、きかなくって。ごめんなさいね…こんなに早く、戻っちゃって…はぁ」

「えみちゃんと、おはなしあい?」
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