運転手はボクだ
「羽鳥さん…」
え?
あ、これが普通よね。普通の呼び方だ。
「昼間は違いますね。夜はあんなに幻想的で…、吸い込まれそうでもあり、圧倒的な世界で…、限りない広さみたいなモノも感じて。
同じ場所にこうして居ても、…木がある、芝がある、野に咲く花がある。
見えてるものがあると全然違う場所になりますね。
見えて知ってるものだと何だか安心で、知らない…未知のモノはちょっと恐くて不安で…。でも、知らないからこそ惹かれる。…のもあります。
連れて来てもらって、良かったです。
こんな機会がなければ、星を見になんてロマンチックな事、出来なかったと思います。
そんな意味でも、鮫島さん親子に出会えた事に感謝ですね」
別に、鮫島さんの言葉を遮ったつもりはなかった。
私も話せる時に話しておかないと、話せる機会はないと思ったから。
だから、思った事、感じた事、思いつくまま話した。
…。
「俺にとっては、君はおばちゃんではないから。勿論、おねえさんでもない。
俺には、羽鳥恵未という一人の女性だから」
…あ、この言葉、どう取ればいいのだろう。…事実のまま?
「そうとしか考えられない。…だから、困る…」
あ、それって。
「俺は千歳と暮らして来て…父親でありたいと思って来た。…男で居ては疎かになると思ったから。決して、千歳を一瞬でも、…居なければいいのに、なんて、思うような事になりたく無かったからだ。器用な…出来た人間ではないからだ。だから…中途半端に…」
近づき過ぎてはいけない。のですよね。私は女だから。
「人は言うよ。千歳君が居るんだから、お母さんになってくれるいい人を見つけて一緒になればいい、とか。…簡単ではないのに、簡単そうに言う。
だけど、違う。それは違うんだ。…違うんだよ」
好きな人を子供の為に犠牲にさせてしまうんじゃないかって?
「それは違うと思います」
「……え?」