運転手はボクだ
「千歳を見てたら羨ましくなったんだ」

「え?」

「恵未ちゃんに抱きしめて貰えてると思ったら…羨ましかった…」

「旦那様…何を…千歳君は子供ですよ?」

「んー…私も幼い頃に母親を亡くして、父親と…、大人の世界で育ったんだ。だから、こんな、一風変わった人間になってしまった、とは言わないがな…」

…そうだったんだ。社長も寂しい思いを…。だから、千歳君の事、いつも気に掛けるような事…。
子供らしく育って欲しいと思ってるんだ。

「子供は子供らしく、甘えられる年齢の時は甘えさせてやるのが一番だ。それが足りてないと、大人になってもいつまでも、自立出来ないものだ」

…。

「フ…私のようにね。
小さい子供が、空気を読む、なんて、そんな寂しい事、させてはいけない。早くから冷めてしまって…つまらない人間になってしまう…」

旦那様…。

「鮫島にここに住むように言ったのは…」

…ん?社長?……寝ちゃったのかな?

「……花火大会がある。…一緒に行かないか?」

あ、起きてた。

「みんなではない、二人でだ」

あ…。

「…夢が……叶う、ぞ…」

旦那様?今度こそ眠ったの?

「恵未ちゃん…ずっと居て欲しい。…私の……傍に。それが私の望みだ。
はぁ、…いい。実にいい香りだ。……いい眠りに…つけそうだ…」

…あ。
これでは千歳君と変わらない…。旦那様…。胸とまでは言わないが、腕を回し、顔を首元に押しつけて眠ってしまった。
眠ったら居なくなっていいって言ったけど。簡単には腕を解けない。これでは無理です。

甘えるべき年齢の時に甘えてない子供は、寂しがり屋の大人になってしまうのかも知れない。
大人だから寂しいと言えなくて、強がって…余計寂しくて。挙げ句、…変わり者に。…。社長は寂しがり屋さんなんだ。
…花火か。…夢が叶うって…。
それは、浴衣で行けばって、その事よね…。
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