運転手はボクだ
・きんぎょ、はなび…かき氷…
千歳?
眠ったか…。

はぁ、何だろうな、こんな…小さい子供に、煽るような事を言われたと思うなんて。
確かに、社長は好意を持っているだろう。千歳の言う通りだ。…見てたら解る。解るけど…ちょっと違う気もしないでもない。
好き、が、違うような気がする。…まあ、好きは好きなんだろうけどな。
わざと好きだと振る舞っているような…気がしないでもない…かな。


ん、んん゙ー。んー…。

「…おはよう」

ん?……え?……え゙っ?

「朝だ。はぁ、嬉しいよ…。朝、目が覚めた時に、私の腕の中に恵未ちゃんが居たなんて。何だかんだ言って、ずっと居てくれたんだな」

「あっ、私、そのままうっかり…」

寝ちゃったんだ。あー、も゙う、やっちゃった…。

「すみません!直ぐ…あ゙」

「ん、構わないよ、慌てなくても。はぁ、せっかくだ、もう少しこのまま居よう…」

「だ、だ、だ、ん゙な、さま!ちょっ」

抱き込まれた。胸を押して離そうとした。

「んー?」

「んー、じゃありません。も゙う、離してください、起きないと…」

うっかり眠ってしまったのは私だけど。

「んー、いけず~。昨夜は大人しかったのに~」

「あ、もう…いけずとか、大人しいとか…、違いますから。もうーいい加減…」

はぁぁ、…はだけた胸元から色気がダダ洩れしてるし…。
…朝ご飯の支度だってあるのに。

「あの、今、何時でしょう…」

…暑い。このまま居たら変な汗が出ちゃうから…。

「さあ?」

…ん、もう、呑気な…。

「とにかく、早くても自分の部屋に戻りますから」

「このまま居て私の着替えを手伝ってくれてもいいんだよ?」

…はぁ、いい加減、解放して欲しい。

「…あのですね、千歳君だって自分でちゃ~んとしますよ?お着替え」

「大人は大人の都合で手伝ってもらうんだろ?お着替え」

はぁ…もう、まったり話してるなんて…あり得ないから。…浴衣なんて、紐一つでスルリと脱げてしまう。急に目の前で脱がれでもしたら…大変。この人ならやりかねないし。

「とにかく、私だって着替えとか…、色々あるんですっ」

「…そうか。あ、昨夜の話だが、浴衣は私が用意しておくから。それと…、今日、業者が来て池の鯉を出すから」

「池の鯉、ですか?今日?ですか?」

鯉?聞いてませんよ…。急にどうして。池の掃除?こんな時期に?

「どうするかは業者には言ってある。問題はないと思うから。ああ、その後で、金魚を入れる」

「金魚ーっ?!ですか?」

「ん、金魚だ金魚。ハハハ」

「は、あ…」

「任せてあるから、特に心配はない」

珍しい大型の金魚でも居るのかな。何を考えているのか、さっぱり…あ、チャンスよ!
腕が緩んだ隙に布団から這い出た。

「あ。…しまった、話に気をとられたか…」

フフフ。ふぅ。

「はい。では、これで失礼します」

立ち上がって頭を下げた。
障子をソーッと開け、様子をうかがうようにして廊下に出た。

「おはよう」

あ゙っ。あ………わ、わ。
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