運転手はボクだ
「お…おはよう、ございます。あの、これは…」

鮫島さんに、こんなところで出くわすなんて。何となく無意識に服を直したり、髪を整えてしまった。

「いや…あの、違うんです、何でもなくてですね…」

スーッと障子が開いて気配を感じた。後ろから腕を回された。…え゛?あ、ちょ、ちょっと?…社長?…これは一体何のつもり…。

「おはよう、早いな鮫島…あ、ふ。…眠い…な?恵未ちゃん」

…あくびをしている。眠いって…どういうつもりで…。

「おはようございます。…早いのは偶々です…では」

そう言うと行ってしまった。…これは…何の誤解を解く役にも立たない行為。逆に疑惑を深めてしまったのではないの?…違いますからね?

「もう!旦那様…。何してくれてるんですか…。出て来たなら、もっと、誤解の無いことでも言ってください。これでは…はぁ」

部屋から出て来ただけでも言い訳し辛いのに、…こんな…腕まで回されて…。

「まあまあ、別に誤解するもしないも、今、恵未ちゃんは事実朝帰りしてる訳だし」

朝帰りとか…。そうでも…違うー。

「…あ、もう、腕、離してください」

「気がついたか」

はぁぁ、もう。ちょっと情にほだされて昨夜居たのが間違いだった。まさか、眠ってしまうとは…はぁ、不覚。
にしても、鮫島さん、早起きだな…。

「恵未ちゃん…」

「はい!!」

「怖…」

「…すみません」

「今朝は和食でなくていいから。時間もあまりないことだし」

え?

「…早起きというより、かなり押してるよ?」

「えーー!」

じゃ、じゃあ、鮫島さんも早いどころか普通に起きてただけ?もう…こんな事してないで、早く言ってくださいよね。

「すみません、急ぎます」

バタバタと廊下を走った。何となく、社長の、早いなって言葉で思い込んでしまったのかも知れない。

「いいよ~、慌てなくて。珈琲だけになってもいいからね~」

慌てますよ。そういう訳にはいかない。仕事は仕事。
鮫島さんだって着替えは済んでいた。スーツ、着てた。はぁぁ大変…。千歳君のご飯が。
着替えてる暇なんてないわ!
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