運転手はボクだ
パタパタとキッチンに入った。

「あ、えみちゃん!おねぼう?」

あ、はぁぁ、良かった。食べてる。

「鮫島さん、ごめんなさい。千歳君、おはよう、ごめんね~」

よし…。頬を軽く叩いてから急いでエプロンを被った。

「いや、通常通常。俺が作る物だから。簡単に用意したから大丈夫」

「でも、ご飯は私がする約束ですから」

「だいじょうぶだよ、えみちゃん。ととがつくったから。おいしいよ?」

確かに。ちゃんと作った物を食べてる。
ロールパンにスクランブルエッグ、ソーセージ。カットした桃にヨーグルトがかかっていた。時短で…美味しそう。ゴクゴクと牛乳を飲み、唇の上を白くしていた。…フフ。
こんな時、料理ができる鮫島さんだから…いつも通りと言われたら、手慣れたものだと思うけど。

「お、千歳、今朝はととのご飯か?美味しそうだな。ん?」

着替えの終わった社長が上着を腕にダイニングに現れた。早くないですか?
あ、急がなくては。

「しゃちょうも、おねぼう?」

「そうなんだ。恵未ちゃんとずーっと仲良くしてたら遅くなってしまった」

「…ふ~ん。て、つないだの?」

「んー?手か?手は繋いではないな」

「そうなんだ。だっこは?」

「抱っこはしたぞ。ギューッて、ずっとしたぞ」

「…ふ~ん」

あ、ちょ、ちょっと…それ以上は。子供にそんな話…。どんな風に受け取るか解らないのに。あ、いけない。ハラハラしながら聞いてる場合じゃなかった。
時計を見た。良かった。いっても全く時間がないという程でもなかったんだ。

先にお水と珈琲を出した。

「直ぐ準備しますので…」

「ん、慌てなくていいから」

バサバサと新聞を広げていた。
悪いのは私?やっぱり寝過ごしてしまった事に関してはそうだよね。はぁ。嫌になっちゃう…もう。

「千歳、今日、保育所から戻ったら金魚すくいしよう」

「きんぎょすくい~?どこで?」

「ここでだ。金魚すくい、したことあるか?」

「ううん、ない」

「よし、教えてやるからしよう」

「うん。とと~、きんぎょすくいだって」

「社長…金魚すくいって」

「実は私もしたことがないんだ」

「は、あ」

「だから千歳と一緒にやる。池に入れておくよう段取ったから」

池?庭のか。入れとくからって…。鯉に食われるんじゃ…。結果、"鯉すくい"になるんじゃないのか…。

「鯉と入れ替えさせておくから」

「はあ」

そういうことか。やることがなんて言うか…子供だな。家でするにしても、何も池に入れなくても。
大きな容器でいいんじゃないのか。

「鮫島もやりたかったらいいぞ?」

「は、い。やります」


出来た…。

「旦那様、お待たせしました。サンドイッチにしました。どうぞ」

テーブルに勢いよく置いた。ふぅ、何とか間に合ったわね。

「おぉ、出来たのか」

「うわぁあ」

「ん?千歳も食べるか?」

「うん!」

「じゃあ…、これをこうして…かえっこだ、どうだ?」

ロールパンを割ってケチャップのかかったスクランブルエッグを挟み込んだ。そうして交換しようってつもりらしい。

「うわ、こっちもいい」

「ハハハ、これもいるのか?」

「うん」

ハハ、じゃあ、ソーセージもらうぞ、と言って、やっと交換の許可がおりたようだ。
沢山作ってある。交換してもしなくても、千歳君が食べても充分ある。
俺も貰うよと、鮫島さんも加わった。
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