運転手はボクだ
庭先の水道で足を洗った。
キッチンに戻り、アイスコーヒーを入れた。

アイスは小さなカップの物を一つ。律儀にセンターにラインを引いて、お互いの手前から掬って食べた。

甘い…。甘い、甘い…苦い。……苦い。
静かに繰り返した。

「こんな事…」

「えっ!?あ、ごめんなさい、大きな声…」

既にドキドキしていたから…びっくりした。

「あ、いや、こんな事、ないよねって思ってさ。金魚すくいは、まあ、そう、することでもないけど、こんな風に恵未ちゃんと二人…。アイスを食べて、コーヒーを飲んで、なんて。ないよね」

「あ。そうですよ。こんな風にしたらいいんですよ」

「ん?」

あ、私は…何を突拍子もない事を言おうとしてたのか…。
…、鮫島さん、好きな人とこんな風に、夜の時間を使ってイチャイチャしたらいいんですよって、言おうとした。
それは…でも、こんな風に、同居してるから出来る事なんだ。だったら…だから…、好きな人が出来たら、一緒に住んじゃえばいいのよ。…そうよね。
そしたら、例え、途中で千歳君が起きて来ても対処できるし、心配もない。…途中?…何の?…。
いや、何の?って。一人で突っ込んじゃった。
……これ…イチャイチャ?…カァ。私……これを、いまの状況を、勝手にイチャイチャしてると思ってたの?…思ってたんだ…。

「恵未ちゃん?」

さっき、水道で足を洗う時だって、肩に手を置かせてもらって…。グラつくからって自然に支えてもらった。…私…。

「どうかした?恵未ちゃん?顔、赤くない?」

ゔ。これ程意識して思ったことなかったかも。元々が優しい人なんだって…。ううん、優しいのよ、誠実なんだよ。千歳君と居るから、そう、人としての気配りがとても出来るからなのよ…。

「……私」

「ん?大丈夫?」

「は、歯磨きして、ね、寝ます。また寝坊なんてして迷惑をかけてはいけないので」

「あ、もう寝るの?またって、今夜も社長と?」

「え?ち、違いますよ。普通に寝るんです」

普通に寝る?おかしい言い回し?普通に一人で寝るんです。

「あ、片付けます」

「いいよ。このくらい自分でするから」

「します、させてください」

グラスを引き合った。

「あ、じゃあごめん、頼もうかな」

「はい」


「恵未ちゃ~ん」

え?

「もう寝る?一緒に寝ようか。中々来ないから迎えに来た」

はぁあ?何ですか?迎えって。そんな約束はした覚えはないですよ?……違うでしょ?
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