運転手はボクだ
バシャ、トプン、バシャバシャ。はまってしまった…。
飛び込んで豪快にびしょ濡れになった訳ではない。
暗い場所と、照らされた明るいところを見ていたら、目がついていかずふらついただけだ。
バランスが取れなくなったのだ。
それで、ちょっとつんのめって鮫島さんの背中に当たって、咄嗟に腕を掴まれて…だけど結局私が引いてしまって一緒に落ちた。
足首くらいの深さだ。撥ねて膝下が濡れたくらいのことだ。

「ごめんなさい、あ…金魚!金魚、踏んだりしてないですよね?」

中で足を上げ下げした。パシャパシャ鳴った。

「それより、出た方が害がなくて済む。…あまり動くと水音も煩いし…」

両腕を掴まれた。冷静だ。

「あ、はい…すみません…鮫島さんごめんなさい」

手を引かれて池から出た。

「ごめんなさい、鮫島さんにしたら二次被害ですよね?…」

「ん?ハハ、ああ、上手く止められなかった。足元暗いし、立ち上がった時から手を繋いでいたら良かった。悪かったね、掴んだけど向きが悪かった」

「ううん、ダイブしなくて良かったです。岩や板で打っていたら血を見るところでした」

…。

「ハハハ、そうだね、…ハハハ」

「あ、今、私だけ、おでこから流血してるのを想像したでしょ?」

「あ?ハー…よく解ったね」

「もう…。一緒だったら、鮫島さんの方が大きいから頭も足も打ってると思いますよ?」

「いや、多分、俺は恵未ちゃんを全力で庇うから、抱え込むように倒れこむだろうから、丸くなって怪我はないと思うよ?」

「そう上手くいきますかね~」

「まあ?こればっかりは試す事はできないからね。出来てたかどうかはこけてみないと解らないね」

「はい。あ、アイスですけど、ストロベリーと、キャラメルと、バニラ…どれにします?」

「んー、キャラメル、にしようか。それと、アイスコーヒー?あ、キャラメルでいい?」

「いいです。そうですよね。私もアイスの後、アイスコーヒーが飲みたいと思いました。……ぁ…」

「ん?」

「…月…綺麗ですね。火星も、あんなに近くに…ぁ」

「おっと、大丈夫?」

空を仰いだら…また少しよろけた。
……ここだって、充分こうして見える。

「…ごめんなさい」

「いや。火星?ああ、何年かぶりに最接近してるって」

「…はい」

…神秘的だ。太陽に照らされて月は白くて。火星は…本当に、赤い。
昔の人が、赤い星を見て火のようだから、火星と呼んだとか。赤く見えるのは地表の土や岩が酸化鉄を含んでいるからだとか。
……わ、気づけばまた、…顔が近かった。抱き止められたままだった。……薄暗くてよく解らないのよね。それに何だか急に沈黙に…。心臓だけが煩い。
星の話なんかふったから、何か、思い出させてしまったかな…。私も貴重な天体ショーに見入ってしまっていた。

「…恵未ちゃん」

「は、はい」

何?沈黙の後は身構えちゃう。

「…大丈夫だった?…社長」

「あ、えっと…」

お風呂ですよね?大丈夫?ではないと思うけど…。カンッ。

「わっ、わーっ!…はぁ」

「ハハ、大丈夫?あれも気まぐれだよね……大丈夫?」

バクバクしていた。心臓が飛び出すかと…。

「はぁ、はい…大丈夫です。…鹿威しも……社長も。大丈夫です」

「…そう、か」
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