運転手はボクだ
「よし。いいだろ」

「はい、有り難うございました」

ふぅ。社長に浴衣を着付けてもらっていた。…なんでもできる人だ。髪もまとめ髪を作ってくれて、かんざしを差してくれた。

「いいね…。よく似合ってる。ちょっと待っててくれるか、直ぐだから」

社長も着替えるのね。
今日は天気がいい。夜もきっとこのまま晴れてるだろう。


「お待たせ」

「いえ、全然待ってないです…よ」

え?鮫島さんが。…浴衣で現れた。

「いい男だな。体つきがいいから着物もいいもんだ」

「は、い」

それはおっしゃる通りなんですが。私…花火は社長と行くのでは?…鮫島さんと、ってことですか…?用が出来たのかな…。

「フ、見蕩れたか?さあ、出掛けて来い。千歳のことは心配ない。一緒に花火をして寝る約束をしている」

「…花火…。旦那様、大丈夫ですか?ちゃんとろうそくで火をつけて、燃えカスはバケツを用意して水に…」

「あー解ってる。子供じゃないんだ、大丈夫だ」

「でも…」

子供じゃ無いのは解ってます。社長だから心配で言ってるんだ。

「帰ってこなくてもいいから」

「は?」

「千歳が心配で連絡なんかしてくるな?今夜は頭から千歳を消せ」

「社長…」

いきなり何を…。鮫島さん…行くのかな…行くから浴衣、着替えたのかな。社長に上手く騙されたのかも知れない…。

「いいから、もう行け…。別に花火に行かなくてもいいぞ?どこにでも好きなとこに行けばいい…」

「あ、旦那様…」

「たまには何でもいい、ゆっくり話して来い…。帰って来たりしたら、恵未ちゃんは俺と添い寝だからな」

…そういうこと。

「とにかく、ここから出ろ。早く行け。時間は待ってくれないぞ。千歳は心配ないから」

シッ、シッ、と追い払われた。背中を押され追い出すように玄関まで来た。

…私と鮫島さんを二人きりにさせようってこと…。社長。一体…社長は、何を考えているのか。


「…では、行ってきます」

玄関で下駄を履いた。てっきり社長と出掛けるものだと思っていた…。
いきなり鮫島さんと行けなんて…社長…。このこと、初めからそのつもりだったのだろうか。
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