運転手はボクだ
「…恵未ちゃん、手、繋ごうか」

「え、あ、は、い」

鮫島さん…。

歩き進めるうち、人が多くなってきた。カランコロン、カランコロンとそぞろ歩く下駄の音がそこここでしていた。

「人ごみの中、うっかり、はぐれると大変だから」

「はい…そうですね迷惑、かけちゃいますね」

…ふぅ。これは逸れない為、って事ね…。あ……、握られた鮫島さんの手、大きい。

「ん?」

「あ、いえ…、あっ、当たり前ですけど、人、多いですね」

「だから、だ」

「はい…」

ふぅ…。ですよね。私がいつもよく繋ぐ手は、小さくて一生懸命握ってくれる手…。フフ、今頃、社長と賑やかに花火をしてるのかしら。でも大丈夫かな。

「あの…鮫島さんは知っていたのですか?今日の事…」

「金魚掬いをした日、一方的に、行けって感じで言われてたんだ」

いつの間に…?。

「あの日も…」

「え?」

「いや、何でもない…」

「添い寝、しませんでしたよ?」

「え?」

「嘘…です、結局したにはしました。胸が痛いとか苦しいとか?朝までに何かあったらってことで。別でって言ったんですけど。でも、前のように、うっかり朝までなんて事にはなりませんでした。あ、前の時も、直ぐ戻るつもりでいたんですよ?…それが…いつの間にか…寝てしまってたんです」

前のようにならなかったのは社長の寝方と寝付きが良かったからだ。直ぐ、腕が緩まったから。

「…ふぅ。…何だかよく解らないけど、特別枠みたいな感じなのかな~…。社長のキャラだからかな…。変に思わないんだ、そういうの聞いても」

それって…。例えば、そういう事に、嫉妬するとか…そんな感情は何も無いってこと…。

「いい大人の男なんだけど、子供のままっていうか。無邪気っていうか、そんな感じ?勿論、時と場合によっては危険だよ?立派な男なんだから」

「はい、そうですね、解ってます」

解ってますけど…。

「恵未ちゃんもそんな印象なの?だから…」

言われたからって、添い寝が平然とできるのかって?…そこは抵抗はあるでしょ。そう思ってもらいたい…。

「はい。でも社長とはですね、雨宿りのお礼に伺った時にちょっとあったんですよ…」

「ちょっとって何?」

え?返しが早かった、気がする。あ、少しは慌ててる?

「ちょっと、は、キス…とか、ちょっと…それは本当にちょっとです。…いきなりだったので」

「どうして!」

「えっ?」

びっくりした…。いきなり両肩を掴まれたからだ。
これ…どうしてそんな事させたんだって、思ってくれてるのかな…。どうなのかな…。そうなのかな。

「あ、ごめん。そっちの土手に座ろうか」

「あ、は、はい」

はぁ鮫島さん…急な反応に、ドキドキしてしまいました。…落ち着かなくちゃ。
はぁ…どうしましょう。
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