カボチャの馬車は、途中下車不可!?
「広報部の樋口ですね。少々お待ちください」
虎ノ門のオオタフーズ本社。
1階の受付で名前を告げて、取り次いでもらっていた時だった。
「あれぇ、君はぁ」
粘着質な声が聞こえて、ぞくぅって背中に悪寒が走った。
「真杉ちゃんじゃない」
「あ、本宮課長、お世話になっております。お出かけですか」
ちゃん付けとか、本気でありえないんだけどっ!
沸き起こった嫌悪感を押し殺して、サワヤカ笑顔のネコを3枚ほど無理やりかぶる。
「どうしたの、今日は。プレゼンはまだだろ?」
爬虫類みたいなねばついた視線が、私の体を舐めるように走って。
真冬に逆戻りしたみたいに、全身がぶるっと震えた。
「樋口さんから追加資料をいただけるとのことで、参りました」
「そんなのバイク便で送らせればいいのに」
「たまたま別件で近くを通りかかりましたので」
「ふぅん……なるほど、オニガワラ詣で? さすが、しっかりしてんねえマスコミさんは」
げ……見抜かれてる。
「そうですね、大河原部長がもしご在席でしたらご挨拶させていただければと」
「ごめんねぇ。時間あれば俺が紹介してあげたいんだけどさ。これでも俺、彼とは何度も飲みに行った仲だから。でもさぁ、これからちょっと急ぎで得意先、行かなきゃいけないんだよね」
じゃあとっとと行けばいいでしょ。
「そうなんですか、お忙しいんですね」