カボチャの馬車は、途中下車不可!?
立っていたのは、フチなし眼鏡をかけ、スーツの上から白衣を羽織った男性。
理系教師みたいな恰好のその人は、まず間違いなく、さっき部下の女の子泣かせてた、あの人だ。
この人が……噂のオニガワラだったんだ……
白髪まじりの髪のせいで、高齢だと勝手に思い込んでしまったんだけど。
まっすぐ見上げれば、意外と肌ツヤはいいみたい。実は結構、若い……?
いくつくらいだろうって考えていると、レンズの奥の細い瞳がすっと怜悧に瞬いて。
私を不審そうに一瞥した。
「あ、あのっ……」
反射的に首をすくめてしまってから、あたふたと言葉を探す私の前。
すっと、何もなかったかのようにその人が通り過ぎていく。
まずい、行っちゃう!
急いで追いすがり、進路をふさぐように正面へ回り込んだ。
「あのっ! お忙しいところにお邪魔してしまいまして、大変申し訳ありません。YKDの真杉飛鳥と申します。すぐ失礼いたしますので、これだけ受け取っていただけませんか」
できるだけ明るい調子で言って名刺を差し出した……んだけど。
「…………」
大河原さんは、無言のまま私1人分のスペースをひょいっと避けて。
……ちょっ……えぇっ!?
い、行っちゃうの!?
無視!?