新妻独占 一途な御曹司の愛してるがとまらない
 

* * *


「今日から、こちらでお世話になります、花宮桜と申します!」


オフィスのあるビルに入ってまず首にかけたのは、昨日貰ったばかりの社員証だ。

エレベーターに乗り社長室に入った私は、正面に座す男性二人に深々と頭を下げた。

ゆっくりと顔を上げれば先ほど別れたばかりの湊の綺麗な瞳に射抜かれる。

一瞬ドキリと鼓動が跳ねたのは、私を見る彼の目が、初めて会ったときのように凛々しく、隙がなかったからだ。


「花宮 桜さん。Lunaへ、ようこそ。改めて、これからの君の活躍を心から期待しています」


今、目の前にいる彼は間違いなく夫となった湊なのに、思わずゴクリと喉が鳴った。

──今朝までの、私を甘く包み込む彼じゃない。

そこにいるのは"あの"Lunaの代表取締役社長である如月 湊で、自然と身体が緊張し、天井から引っ張られたみたいに背筋が伸びる。


「君が配属される企画課までは、僕の秘書を務める近衛が案内することになっている。なにかわからないことがあれば、遠慮なく彼に聞いてくれ」


言われてハッとした私は改めて、湊のそばに控えていた男性に目を向けた。

社長室は約十五畳ほどの広さで、黒と茶色を基調に品よくシックにまとめられている。

部屋の真ん中には応接用の黒い革のソファーと机、部屋の一番奥には今、湊が座る重厚な社長席があった。


「はじめまして。如月社長の秘書を務めております、近衛と申します。先のメールでは、大変お世話になりました」


その、社長席の前に立っていた背の高い男の人は、言いながら、うやうやしく腰を折った。

近衛さん──というのは、私がLunaとの仕事について、メールでやり取りをしていた相手だ。

湊と初めて会ったあの高級ホテルのレストランには、今、目の前にいる近衛さんが現れると思っていた。

結果として待っていたのは湊で、近衛さんに会うのは今日が初めてだ。

 
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