新妻独占 一途な御曹司の愛してるがとまらない


「……トウジさんは足を車に挟まれてて動けなくて。でも、そのそばでずっと、トウジさんを励ましてくれた夫婦がいた」


──その夫婦も、頭と身体に怪我をしていたのに。

それでも二人は懸命に、「頑張れ」と声を掛け続けていたのだと湊は続けた。


「その夫婦も亡くなったっていうのは、ニュースを見てあとから知った。二人は……俺にも"大丈夫だから、あなたは早く逃げなさい"って懸命に声を掛けてくれて……。俺は今でもハッキリと、そんな二人のことを覚えてる」


──ああ、そんな。

その夫婦が誰なのかなんて──聞かなくてもわかってしまった。


「桜のご両親だ。本当に、二人には感謝しかない。あのとき、なかなかトウジさんのそばから離れようとしなかった俺に、あの二人が懸命に声を掛けてくれたから……今の自分がいるとも、俺は思ってる」

「……っ」


その言葉を聞いた瞬間、涙が溢れた。

あの日は、同窓会帰りの母を父が近くの空港まで迎えに行ったのだ。

遅くなるかもしれないから、桜は、おばあちゃんの家で待っていてね。

そう言われて私は寂しさを覚えながらも言われたとおり、両親の指示に従った。

< 256 / 273 >

この作品をシェア

pagetop