新妻独占 一途な御曹司の愛してるがとまらない
「歩ける?」
「あ、あの……?」
予想外の状況に、慌てて辺りを見渡した私の頭の中は混乱で揺れていた。
てっきり区役所の駐車場についたのだと思っていたけれど、そうではなかった。
私を囲むのは気品に満ちた灯りと、大理石の壁。
足元のタイルはピカピカに磨かれていて、石ころひとつ、見つけられなかった。
入口の上部、黒地に金色の文字で書かれたホテル名を見て、目眩を起こしそうになる。
……なんで?
ここは都内でも有数の高級ホテルの正面玄関だ。
乗ってきた車を車寄せに置いたまま、如月さんは私の腰に手を添えると「行こうか」と、ホテルの中へ促した。
「き、如月さん……」
これは一体、どういうことだろう?
今から区役所に行って、婚姻届を提出するんじゃなかったの?
そういえば先ほど、如月さんはベッドで寝るとかなんとか言っていた。
寝起きの私の聞き間違いではなければ、多分──そのほうが身体もよく休まるからと、言っていたと思う。