新妻独占 一途な御曹司の愛してるがとまらない
「婚姻届を提出する前に、桜に大切な話があるから寄り道していいか聞いただろう?」
「あ……」
目を白黒させている私を見て、如月さんは柔らかな笑みを浮かべた。
『……婚姻届を提出する前に、桜に大切な話があるから少し寄り道をしてもいいかな?』
言われてみれば先ほど車の中で、如月さんはそんなことを言ったのだ。
寝起きと混乱で、スッカリと頭から抜け落ちてしまっていたけれど……。
「今日は、このホテルの部屋を取ってあるから、そこで、ふたりきりでゆっくり話したい。婚姻届は明日の朝、提出しに行こう」
言いながら彼は私の腰を抱いたまま、ホテルのエントランスを抜ける。
そのまま慣れた様子でロビーでチェックインを済ませると、きらびやかなエレベーターに乗り込んだ。
あまりの手際の良さと慣れない状況に、私はただ、されるがままだ。
そんな私の思いを知ってか知らずか、如月さんは最上階である五十三階のボタンを押すと、未だに困惑している私に向き直った。
「……驚かせて、ごめん」
「え……?」
ふたりきりのエレベーター内。
ぽつりと零された言葉に、弾かれたように顔を上げた。
困ったように眉を下げる如月さんの少し弱気な表情に、心臓が不穏な音を立て始める。
……如月さん?
如月さんのこんな表情を見るのは初めてだ。
出会ってからの彼は堂々としていて余裕たっぷりで、私を穏やかに包み込んでくれていた。