悪しき令嬢の名を冠する者
「突然なんですの!? 今迄したこともなかったのに、まるで……」

 王子様のような。そう囁きそうになってハッとする。嫌いな相手に言うには、あまりにも癪だった。

「寒い詩人のようだわっ! 気持ち悪い!」

「そうでしょうか。騎士の間では未だに残る古い習わしです。一生を誓える相手に出会ったのならするべきだ、と」

 彼が放った言葉は婚姻の誓いのようで私は忙しなく手を遊ばせた。なにを返せばいいのか分からない。

「一生……お前、私のこと嫌いじゃないの?」

「以前のアンタは好きじゃなかった。でも、今のアンタは清い。まるで聖女のような雰囲気を纏っています。俺は知っているんですよ。コッソリ寝室を抜け出しては薔薇を愛でるレイニー様を」

「なっ!?」

「護衛係を舐めてはいけません。どれだけ繕っても美しい心は何かを惹きつけるんだよ。俺が、そうだったように。
 レイニー様に何が起こったのか。アンタが訊かれたくないって言うなら、もう訊きません。ですから俺の前でだけは素直なアン……貴女を見せてはくださいませんか?」
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