龍使いの歌姫 ~神龍の章~
「……くそっ」

チャリチャリと音がなり、アルは忌々しそうに舌打ちをした。

城に入った途端、レインとは別の所に連れていかれ、城の地下にある牢屋へと放り込まれた。

おまけに、足と手には枷が付いており、壁へと張り付けられる。

(随分厳重に固めてくれたな)

丈夫な鎖を、外すことは不可能だ。ゼイルなら、引きちぎれたかもしれないが。

アルは一通り動いてから、大人しく座る。

レインは無事だろうか?怪我などしていないだろうか?

今、その事が一番気になった。

(……何のためにレインを連れてきたんだ)

フードの人間の一人が、竜騎士に何かを呟いていたのは知っていたが、内容までは分からなかった。

(竜騎士はこの国の王女の命令でレインを捕らえにきた。だが、後から来たあいつらは、城の占い師の命令で来たと言ってたな)

城の占い師が、一体レインに何の用があると言うのだろうか?

考えたところで、本人に聞かなければ分かる筈もない。

(……占い師サザリナのことは、長老様から聞いて少しは知っている)

先代の龍王が即位した後、城へ召し上げられた存在であり、彼女の占いは外れたことが無い。

だから、龍王から絶対の信頼を寄せられているとも聞いたが。

「……占いなど、所詮はもしもの可能性に過ぎない」

未来を誰かに決められたくなど無い。自分の未来は、自分で作るものだ。

その先に待っているものが、望んでいなかったものだとしても。

「そして、この世に当たり前なんかない」

毎日が同じように見えても、どこかが少しずつ違う。当たり前だと思っていた日が、突然変わってしまうこともある。

だから、毎日を大切に生きようと思える。

「……くだらないな」

淡々としたような声で吐き捨てると、不意に牢屋の奥から足音が聞こえた。

恐らく一人。コツコツと階段を降りる音が聞こえる。

「……」

兵士だろうか?それにしては、随分とゆっくりした足音だ。

「生け贄の娘と一緒に、もう一人忌み子を捕らえたと聞いたが、お前のことか?」

目の前にやってきたのは、茶色の髪を腰まで伸ばした老女。

「……お前が、この城の占い師か」

「!」

アルが目の前に来た老女を睨むと、老女は目を見開く。

「お前は………まさか―」

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