龍使いの歌姫 ~神龍の章~
「……病にかかっているのなら、生け贄を差し出すよりも、病を治す方法を探すべきではありませんか?」

神龍が病に犯される度に、生け贄を捧げるなど間違っている。

生け贄を捧げても、結局治るわけではなく、一時しのぎにしかならないだろう。

「神龍様を治す方法は無い。そもそも病の原因が分からぬのだからな」

「……貴女は国の占い師で、生け贄として差し出す人間も分かりましたよね。それなのに、病の原因は分からないのですか?」

占い師は医者では無いだろう。だから、分からなくても仕方ないとは思う。

だが、何でもお見通しという感じで話すサザリナならば、病の原因を突き止めることは可能ではないかと思った。

「わたくしは予言をする者であって、医者ではない。それに、占いの結果も断片的な情報しか得られん。お前を見付けた時は『赤い髪』、『娘』、『山の奥の小屋』これだけだ」

その少ない情報で、レインを見つけ出したとサザリナは言った。

「さて、お喋りはおしまいだな」

「!」

レインが行動を起こすよりも早く、サザリナはレインの両肩を強く押して、神龍のいる結界へと放り込んだ。

「!………痛っ………」

尻餅を付いて、レインは痛みに顔を歪ます。

「せめて、お前が食われる瞬間は見届けてやろう。本当なら身を清めてからの方が良かったのだが。何しろ神龍様には時間がないからな」

レインは何とか立ち上がると、結界へと走る。そして、結界を叩いた。

だが、ガラスを叩いているかのように固く、自分の手が痛むだけだか、それでも叩くことを止めない。

「出してください!私はここで死ぬわけにはいかないんです!」

両手を握り締め、何度も何度も叩く。

与えられた衝撃は全部自分の手へと返ってくるため、レインの手は真っ赤に染まっていた。

下手をしたら、皮膚の下で出血しているかもしれない。

「……諦めろ。お前が食われることで、神龍様が救われる。神龍様が救われるということは、国が救われるんだ。むしろ、名誉な事なのだぞ」

(……名誉?)

こんなことが、名誉な事だなんてレインは思わない。
< 39 / 76 >

この作品をシェア

pagetop