龍使いの歌姫 ~神龍の章~
「……それより、お前が騒ぎすぎたせいで、神龍様の機嫌を損ねたようだな」

サザリナがレインの後ろへと視線を移す。

「え?………っ!!」

ぞくりと背筋が震える。突き刺さるような何か。空気が凍り付いたような感覚。

これは、殺気だろうか?

結界を叩いていた手を下へ降ろし、レインは恐る恐る振り返った。

「!!………っ………」

悲鳴をあげそうになったが、声が口から溢れることは無かった。

本当に驚いた時、恐怖した時は、声など出てこないと初めて知った。

神龍は首を捻ってレインを見ていた。

濁った金色の瞳が、こちらを見下ろしている。

心臓が止まりそうだった。頭の中が真っ白に染まり、何も考えられなくなる。

『シャァァァァァ…………フゥー………』

小さく唸り声を上げながら、神龍はゆっくり体を持ち上げる。

「……あ………あぁ……」

レインは背中を結界へと付けると、震える体を抱き締めた。

「神龍様。この者が新しい生け贄です」

『ギャォォォォォォォォン!!』

雄叫びのような鳴き声を上げ、神龍は片手を振りかざす。

刃が光り、あれで切り裂かれたらどうなるのかと考えただけで、恐怖が膨らんでいく。

「い……や……」

声も震え、呼吸もままならない。

(……私……死ぬの……?)

自分が死んだらどうなるのだろうか?

『………ガァァァァァ!!』

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

神龍の刃が、躊躇いなく振り下ろされた。
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