龍使いの歌姫 ~神龍の章~
目の前に転がっていた姉の形見を、レインは見つめる。

(……りゅうぶえ?)

「お前、それをどこで手に入れた?」

サザリナのどこか狼狽えた声に、レインは困惑する。が、そんな暇は無い。

神龍はまたレインへと刃を振りかざしたのだから。

「!」

レインは横笛を拾って、神龍の刃を避ける。

「答えよ!娘!」

今はそれどころでは無いのだが、サザリナはレインに質問の答えを求める。

「どこで手に入れたのだ?!早く答えよ!」

「ぐっ………うっ……」

その間にも、何度も神龍の刃が振り下ろされて、レインの体に少しずつ傷がついていく。

サザリナのいる方へと転がると、サザリナはレインを見下ろす。

「……答えよ。それによっては、ここから出してやろう」

「………これは、姉の形見です。私を育ててくれたティアナ姉さんの」

出してくれると言ったサザリナの言葉を、レインは一度信じることにした。

「ティアナ……まさか、ティアニカのことか?」

セレーナもそう呼んでいたことを思い出し、レインは無言で頷く。

「……わたくしの、愚かな弟子が育てた娘か」

「!どう言うことですか?姉さんが、貴女の弟子?!」

姉が城にいたと聞いた時も驚いたが、サザリナの弟子と聞いて更に驚いた。

だが、サザリナはティアナを、「愚かな弟子」と呼んでいた。

「……ティアニカは、わたくしの一番弟子。本当ならわたくしの次に、この国の占い師となる筈だった。だが、あやつは龍笛を盗み、城から去った。……だから、死んだ」

「!!」

レインは、すぐに察した。

姉の死なせた原因、それは姉の師匠であるこの国の占い師だと。

「お前の持っている龍笛は、ティアニカと共に消え去ったかと思ったが、まさかまだあったとは」

サザリナの言葉が、耳をすり抜ける。

龍笛のことより、姉の死のことの方が、レインにはずっと重くのしかかる。

「だが、その龍笛が無くとも困りはしない。……食われるがいい」

「!待ってください、今の話で私は出すに値しないとお思いですか?!」

答えたら出すとは言っていない。だが、自分がティアナに育てられた人間だと分かったなら、知りたいことくらいある筈だ。

「死んだ者に興味はない。これから死ぬ者にもな」

「!」

後ろから聞こえた唸り声に、レインは振り返ると、こちらへ向けて口を開けている神龍の姿が見える。

(……どうすればいいの?……どうすれば……)

不意に、手に持っていた龍笛が熱を持ち、青白く光った。
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