龍使いの歌姫 ~神龍の章~
翌日、ティアニカが深刻な顔でこちらへやってきた。

「……?ティアニカ?」

「………」

ティアニカはエレインを抱き締めた。

「………」

ティアニカの体は俄に震えており、エレインはどうしたのかと心配になる。

「ティアニカ?どうしたの?……どこか痛いの?」

「……お許し……ください」

ティアニカの声も震えており、エレインはどうしてあげればいいのか分からなかった。

けれども、ティアニカが何かに苦しんでいることは分かり、エレインはティアニカの背中を撫でる。

すると、ティアニカの肩が跳ねた。

「……大丈夫。大丈夫よ、ティアニカ」

大丈夫だと何度も繰り返し、エレインはティアニカの背中を何度も撫でる。

神龍に頭を撫でられた時、とても落ち着いた。だから、同じようにティアニカを落ち着かせたい。

エレインはただ、ティアニカを安心させてあげたい。それだけだった。

「………やっぱり……出来ない……っ」

ティアニカの強張っていた体から力が抜けると、後ろで金属の転がる音がした。

「?今何か、音が……?」

ティアニカが体を離すと、エレインは後ろを振り返ろうとする。

けれども、すぐにティアニカの手が、エレインの視界を塞ぐ。

「?何をしてるの?」

「……姫様、私はこれから、罪を犯します。……そして、いつかその罰を受けるでしょう。……それでも、私は貴女を殺したくない」

「何を―」

ティアニカの言葉の意味を聞こうとしたが、ティアニカが何かを呟くと、エレインの意識は遠のいた。

最後に覚えているのは、泣きながらこちらを見下ろすティアニカの顔だけだった。


そして、目が覚めたら、エレインの記憶は書き換えられていた。

物心ついた時から、クックレオとティアナの二人と共に過ごし、両親はいないと思い込んでいた。

ティアナはエレインを「レイン」と呼び、自分もそれが当然の事だと思い、受け入れていた。

ティアナを、実の姉だと思っていた。
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