龍使いの歌姫 ~神龍の章~
(……神龍……様……)

レインには、神龍が泣いているように見えた。心の中で、血の涙を流している。

遠のきそうになる意識を繋ぎ止めるが、このままいけば、地面へと激突するだろう。

―約束を忘れないでおくれ。いつかお主が私を救っておくれ―

(そう……約束……したの)

けれども、その約束は果たせないかもしれない。レインは目を閉じた。

(……ごめんなさい。……お母様)

レインにとって、神龍は母親だった。だからこそ、救ってあげたかった。

ふと、ティアナの言葉が頭の中に甦る。

―レイン。私の可愛い妹……私の分まで生きて、幸せになって―

(……姉さん)

ティアナの声が聞こえた瞬間、レインは目を開けた。

まだ、死にたくないという思いが渦巻き、レインは大きく息を吸い込んだ。

「ティアー!!」

レインの声に答えるかのように、雄叫びのような鳴き声が上がり、レインの体を受け止める。

『………』

「……ティア」

龍の姿に戻ったティアは、首だけでレインを振り返る。

『………』

ティアは黙っていた。だが、レインにはティアの心が分かる。

「………私、貴女のお母さんを救いたいの」

レインは、ティアが自分の穢れを浄化していたことを知った時、ティアの生まれの秘密に気付いた。

神龍は、他の龍のようにつがいにならずとも、魔力を練り込んで卵を作ることが出来る。

つまりは、分身とも言える存在を生み出すことが出来るのだ。

レインは幼い頃、神龍からそんな話を聞いていた。だから、この話を思い出した時、ティアが神龍の子供だと分かった。

「ティア。神龍様の元へ、一緒に行ってくれる?」

『………』

ティアは黙って頷くと、神龍の元へと高く舞い上がる。

レインは切り裂かれた痛みに耐えながら、ティアの背中の上で立ち上がった。

まずは、神龍の動きを止めなければ。
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