龍使いの歌姫 ~神龍の章~
(……龍笛は、昔貴女から貰った)

いつか、必要になる時が来るかもしれないと、神龍がレインへと渡した。

だが、時が来るまではティアナに預けておけと言われ、レインは言われた通りに、ティアナへと渡した。

(あの龍笛は、龍の動きを止める役目と、癒す役目がある)

けれども、龍笛は壊れてしまった。

レインは暴れまわる神龍を見ながら、困ったようにため息を吐いた。

だが、息を吐き出した時、レインはハッとした。

(音は、唇から紡がれる)

龍笛はあくまで媒介。息を吹き込んで奏でる物。

それならば、唇から紡がれる音も、同じ効果がある筈だ。

(やるしかない!)

レインは息を大きく吸い込むと、歌を歌う。

「~♪」

神龍の心に届くように、声に想いを乗せて。

『………』

神龍は動きを止めて、こちらを見ていた。

レインは歌いながら、弓矢を構える。

(……これを射れば……)

自分の手で、大好きだった母を殺す。その事が、鈍く心に刺さった。

「~♪………~♪」

声が震え、泣きそうになる。けれども、レインは歌い続けた。

ギリッと引いた矢の切っ先が、レインの心の迷いを表すかのように震えている。

この一矢に全てをかけなければいけない。

なのに、震えは止まってくれない。

『…………て』

不意に、神龍の声が聞こえた。

「!~♪」

だが、歌うことを止めない。止めてはいけない。

『……殺して……』

「~♪………っ……~♪」

鼻をすすり、涙がこぼれ落ちる。

殺さなくては。彼女が誰かを殺してしまう前に、これ以上、彼女が傷付かなくて良いように。

(……でも―)

「躊躇うな!」

聞き慣れた声が耳に入ると、レインの体を温かい温度が包む。

「ア―」

「まだ、歌い続けろ」

訳が分からないまま、レインは言われた通りに歌い続ける。
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