龍使いの歌姫 ~神龍の章~
アルはレインを後ろから抱き締めたまま、耳元で囁く。

「……躊躇うな。お前のことは僕が守る」

そう言いながら、レインの手へと自分の手を持っていき、矢を引いてる手に、アルは手を重ねた。

「僕も、お前が背負うものを一緒に背負う。……だから、躊躇うな」

「!………うん」

レインは泣きながら頷いた。

そして、レインの歌が止んだ途端、神龍はこちらへ向かってくる。

レインとアルは、神龍がすぐ目の前に来るまで待った。

そして―。

「さようなら………………お母様ぁぁぁぁぁ!!」

様々な葛藤を振り払うように、今だけはただ、母のために。

レインは叫んだ。

「っ!」

レインとアルは、同時に手を離し、銀の矢を放った。

迷うことの無い一矢は、神龍の額に刺さる。

神龍は声無き声で鳴いて、そのまま硬直した。

そして、そのまま黒い霧となって体が崩れていく。神龍の金色の瞳からは、涙が流れ落ちていた。

「………っ……」

矢を放ったレインの瞳からも、止めどなく涙が流れ落ちていた。

『…………』

神龍は最後に、優しく微笑んだようにレインの目には見え、余計に胸が痛かった。

そして、神龍の姿は空の中でかき消える。

「………う……うぅ………っ……」

レインはだらりと手を下げ、弓を落とす。そして、アルへとすがり付くと、声を上げて泣いた。

そんなレインを、アルはただ黙って抱き締める。

二人を乗せたティアは、ただ朝日が昇る光景をジッと見ていたのだった。

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