龍使いの歌姫 ~神龍の章~
レインの言葉に、レオンは目を見開いた。

「貴方がどんな理由で私を拾ったとしても、貴方が誰だったとしても………やっぱり、私、師匠が大好きなんです」

泣き笑いのような顔で、レインはそう言った。

「姉さんと師匠は、私とは血の繋がりの無い二人ですが、それでも、二人とも……私は大好きだから……だから……」

『…………ありがとう』

レオンはレインに頭を下げると、ポタッと涙を落とした。


「さて、レイン。神龍がいなくなった今、新しい神龍を迎えなければいけない。……そこにいるティアは、神龍の落とし子。充分神龍としての素質はある」

あの後、レオンは人の姿になると、龍王の間へレイン達を集めた。

ティアもゼイルも人の姿になっており、セレーナや竜騎士もここにいる。

サザリナは、あの後牢屋へと入れられたそうだが。

「…………」

「君が新たな龍王となり、ティアが神龍となってこの国を支える。それが、本来の形だ。君は王になる資格があるからね」

レオンはいつもの穏やかな口調でそう言う。

レインは暫し口を閉ざしていたが、やがてゆっくりと首を横に振った。

「……私は、誰かが一人で全てを背負うこの国の在り方が、決して正しいとは思いません。私がティアを育てたのは、何もかもを背負わせる為で無く、ただこの世に生を受けた生き物として、自由にどこまでも飛んでほしかったからです」

「……レイン」

ティアは小さくレインの名を呼んだ。

「私は、自分の生んだ穢れは、自分で背負うべきだと思います」

自分が生み出した穢れは、自分でどうにかするべきだ。

それこそが、正しいと思う。

誰かに押し付けて、背負わせるべきではない。

「……けれども、それでは人は、穢れを浄化出来ない。穢れを浄化出来なければ、人と人が争いあう」

「……それでも、そうあるべきです。人間でなくても、本能で生きる生き物達も、お互いに争いあう時もあります。……けれども、人間は本能だけでなく、相手のことを考え行動することが出来ます」

人は、時に自分の感情に負けてしまうかもしれない。制御しようとしても、出来なくなる時があるかもしれない。

「だから、信じてくれませんか?……人の心を。心の中にある、己自身に打ち勝てる強さを持ってるということを」

時に争い、時に手を取り合う。人は愚かなほどに罪を重ねてしまったりすることもあるけれど、それでも人は、自分で立ち上がることが出来る。

立ち上がれずとも、引っ張り上げてくれる仲間を作ることが出来る。

「人は、けして強くはありません。けれども、強くしてくれる人達が回りにいれば、人は自分の穢れ何かに負けない。……私は、そう信じてます。ですから、私は龍と人の住む場所を、一度分けるべきと思います」
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