オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき


篠原友里という子に興味を持ったのは、同僚のする噂話からだった。

『可愛いよなぁ。でも態度がな……』
『なー。俺もちょっと頑張ってみようとしたけど瞬殺だった。あれは心打ち砕かれるわ。なんの会話振ってもニコリともしねーんだもん』

『やっぱり女は愛嬌だよな。なんだかんだ昔のひとの残した言葉って全部正しいんだから従っとけって話だな』

〝可愛いけれどニコリともできない、愛想の悪い女〟だと評されていた彼女を見かけたのは、そのあとすぐだった。

エレベーターで一緒になったとき、乗り合わせた先輩らしき女性に〝篠原〟と呼ばれているのを聞いて気付いた。

たしかに噂通り整った顔立ちをしているとは思った。若干幼さが残っている外見は美少女と呼んでも言い過ぎではなかったし、同僚が騒ぐのも理解できた。

大きな丸い目に、小さな鼻と形のいい薄い唇。透き通るような白い肌と、栗色のサラサラとした髪はまるで人形みたいで、可愛い子もいるもんだなぁと感心すらしてしまうほどだった。

ただ、やっぱり、エレベーター内での会話をこっそり覗き見していても彼女はずっと真顔だったし、そのあと、社内で意識して探すようにしたけれど、いつ見かけても無表情だった。

〝そんなにつまらない?〟と、うっかり口にしそうなくらいには。

〝噂通りの、無愛想な子〟という印象が変わったのは、初めて見かけてから半月が経った頃。たまたまエレベーター待ちが一緒になったときだった。

エレベーターに乗り込み、彼女が〝閉〟のボタンに指を伸ばしたと同時に『篠原、待って』と声が聞こえた。

見れば、男性社員が片手を顔の前に上げ『俺も乗せて』と申し訳なさそうな笑みを浮かべているところだった。

走ってきたのか、呼吸が乱れている男性は無事乗り込むと、ふーっと息をつく。

そんな姿を見て、彼女は笑った。……笑った。




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