オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき


『友里ちゃん』

話すようになってたった一ヵ月だっていうのに、耳に残ってしまっている声がわずらわしい。

きっと、松浦さんが過去ゲームのターゲットにしてきた女の子たちはみんな、こんな風な症状に襲われているんだろう。

本当に性質の悪い男だ。性質だけじゃなくて性格も悪い。

「篠原、先週、加賀谷さんのところにお見舞いに行ったんだって? 今日、話の流れで加賀谷さんから聞いて驚いた。篠原からそんな話ちっともなかったから」

「あ、はい。帰りがけに電話があって、鎮痛剤を届けにうかがっただけですけど」

それだけですよ、というニュアンスで報告すると、工藤さんは納得いかなそうにわずかに眉を寄せた。

大通りに出ると、どっと人通りが増え、ぶつからないように注意しながら歩く。
先月末からポツポツと始まっていた、木に括りつけられたクリスマスイルミネーションがチカチカとゆっくりとした速度で点灯する。

「〝だけ〟って、ひとりで加賀谷さんの部屋に行ったわけでしょう? 今までの篠原だったらそんなの大事件じゃない。風邪で弱ってる加賀谷さんが可愛かったとか、騒ぎそうなものなのに」

「別に、今までだって騒いでなんか……」
「表面上はね。雰囲気は大騒ぎでしょ」

図星をつかれ、思わず黙る。
たしかに、今まで加賀谷さんに顔を近づけられただけで内心大騒ぎだったし、そういう私を工藤さんはずっと見てきている。

表情に出した覚えはないけれど、それでも滲み出るなにかがあったってことだろう。

だから、工藤さんの言い分はもっともで……おかしいのは、変わったのは私ということになる。

< 176 / 229 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop