オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
本社三階にあるフロアには、第一品管と第二品管、それに工務とみっつの部署があるけれど、基本的に部署同士を遮る壁はない。
広い空間を、ただパーテーションで区切っただけだ。
学校の体育館を少し大きくしたくらいのフロアのフリースペースには、合同で使うコピー機やら印刷機、シュレッダーなどの機械関係や、書類の入った段ボールが積まれている。
ちなみに、三階にはこの部屋以外にも十畳ほどの会議室がふたつあり、今、多田部長はそこで会議に出ているというわけだった。
第一品管の人とひと言ふた言交わし笑顔をこぼした加賀谷さんは、再び書類に目を落とすとひとつため息を落とした。
なにかあったのかな……と思いながら眺めていると、視線がぶつかる。
〝見られてたか〟とでも聞こえてきそうな、バツの悪そうな笑みに、胸の奥がキュンと締め付けられた。
麻田くんと違い、黒髪短髪という、規定に従った清潔感溢れる髪型の加賀谷さんの顔立ちは……正直、人相はよくないかもしれない。
一重の、やや吊り上り気味の目も、いつでも笑みを浮かべているような表情豊かな口元も私は大好きなのだけど、工藤さんから言わせると『街中で肩ぶつかったら人生終わったって覚悟する』らしい。
私にとって微笑みに見える加賀谷さんのそれは、他のひとにとっては穏やかには見えないらしかった。
……別に、ちっとも怖くないし、むしろ性格はいいのに。気が利くし面倒見だっていい。
ただ、初めて顔合わせしたときには内心〝怖い〟と思っていただけに声に出してはなにも言えないけれど、顔だって見慣れれば可愛い。
『この顔だから新人によくびびられるんだよなー』って、気にしてないような笑顔で言いながら実は気にしてるのなんて、もだえるほど可愛い。
『俺、大学のとき、アホ可愛い系で女子から人気だったんすよ』とか言ってた麻田くんなんかより加賀谷さんのほうが億倍可愛い。
「どうかしましたか?」
内心、萌えていることを隠して平然を装って聞いた私に、加賀谷さんが複雑そうな微笑みで説明する。