オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき


「いや、クレーム対策室の部長から頼まれたんだけどさ、これってうちの課の仕事かなって考えてただけ」

私のデスク近くで足を止めた加賀谷さんが、それまで持っていた書類を私に手渡す。
見れば、ここ数年で一番ヒットした緑茶製品の工程表だった。

「これがどうかしたんですか?」
「どうもクレームが入ったらしいんだけど、その顧客がちょっとややこしいんだよ」
「ややこしい?」

クレームと、この工程表がどう関係しているんだろうと首を傾げる。

「飲料メーカーに勤めてたとか、それほどじゃないにしても製造の現場を知っているような口ぶりだって話だ。簡単にいうと〝緑茶の濃度が違う気がする。どうなってるんだ。工程表見せろ〟っていうことらしい」

「……なるほど」
「工程表は持ち出せないし複写を渡すわけにもいかないって説明しても、だったらそっちに行ってやるって言いだして聞かないって話なんだ。
まぁ、あちらさんも熱が上がってるだけで本当にここまで来るかはわからないけどな」

〝工程表〟なんて言葉を出してくるってことは、加賀谷さんの推理通り、なにかしらの製造現場を経験したひとなんだろう。

少なくとも私は、入社するまでは〝工程表〟なんて知らなかったし。

「とりあえず、担当は〝申し訳ありません〟と〝早急に調査します〟で通したらしいけど、最後まで〝そっちまで行くから工程表見せろ〟って言ってたらしいから……まぁ、念のためにってところだな。
本当に来たとき、用意していないってなったら、こちら側の誠意が足りないって叱られかねない」



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