不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
「でも、私は助けにはならないんでしょう」

「そうだな。だから、帰す。心配するな。必ずおまえを守って、元の世界へ――」

 そこでジリアンは口を噤む。

 喉になにかが痞えたような、どこか不自然な様子だった。

「ジリアン?」

「何でもない。冷えてきたな。部屋へ戻ろう」

 また守ると言われた。

 ――そこまで帰り道は危険なの? 〈召喚魔法〉自体が危険? それとも、別な理由があるのかしら。

 不安が膨らみ、組んでいたジリアンの袖の布を掴む。確かな腕を感じるだけで、安心感がこみあげ、ほぅとため息を吐きたくなった。

 そこで不意に気が付く。

 確かめるのを先延ばしにするのは、もっとこうしていたいからだと。もっと彼と一緒にいたい。もっと彼のことを知りたい。もっと――。

 ……どうしよう。こんな気持ちを持ってしまって。帰るのに。

 心の迷宮が口を開けて彼女を呑み込もうとしている。
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