不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
「ショールをお召しください」

「午後になったばかりでしょ。太陽があるから平気よ」

「では、わたしが持っておりますので、少しでも寒いと思われましたら羽織ってくださいね」

「ありがとう」

 今日も天気が良かった。秋晴れというよりは、初冬の晴れ間だろうか。

 秋から冬への移り変わりは足が速く、かなり肌寒くなっていたが、昼間は陽光が降り注いでいるので、歩く分にはドレスだけでも十分だった。

 あちらを見、こちらを眺め、花や木々に話しかけながらサクサクと歩いてゆく。

「外を歩くと気分が晴れるわね。運動にもなるから夜も眠れるし」

「マユコ様。よくお眠りになられていないのですか?」

 うっかり話してしまった。まゆこは急いで首を横に振る。

「変な夢を見たのよ。でも毎晩ではないし……二度くらいかな。眠れないなんてことはないから、デイジーには言わないでね。他の人にも」

「……はい」

 躓いたときの夢はあれから見ていない。誰もが忙しくしているいま、夢が気になって眠れないなどと、話したくなかった。

 特に、魔法闘技が迫っているジリアンには言えないし、彼に伝わるようなことは避けたい。
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