不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 まゆこは身体の向きを変えて小道をたどる。

 裾さばきもそれなりに上手くなってきたと思う。ダンスも日々できるようになっていると思いたい。難しいステップを幾つか覚えた。

 前を向いて背筋を伸ばせというデイジーの厳しい指摘もこのごろは聞かない。

 城の者たちが抱える大量の仕事や、上に立つ者たちの責任の大きさに比べて、自分に望まれたのは『いつも通りに』という一事だ。

 できないなどと、言えるものか。

 奥歯を噛みしめる。噛みしめながら微笑むのは難しいが、いつも通りに空を見上げて天気がいいと喜ぶ様子で言う。

 天気のことを言ったのはすでに三度目ではないだろうか。エルマはいつも『はい』と応えてくれる。

 微笑みを絶やさないようにしてゆっくり歩き、まゆこは部屋へ戻った。
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