不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
「そういう者は屋敷の奥に閉じこもっている。いずれ父親の決めた相手と結婚するから、伴侶のいない状態で見かけることはないな」

 中世ヨーロッパの貴族社会と本当によく似ている。魔法があるかないかは、とてつもなく大きな違いだが。

「かといってマユコに襲い掛かるつもりはない。その鍵で閉めれば、いくら私でも簡単には開けられない。錠が壊れるほどの魔法力を加えると、鐘が鳴り響く仕掛けがしてある」

 鐘が鳴り響くとは、まさに警報だ。まゆこはほっと息を吐く。

「ごめんなさい。わたしが自分から来たのにね」

「鍵が使われると、私に分かる。こちらに来る気配もしたからな。待っていた。なにが訊きたい」

 顔を上げる。真正面からしっかり彼を見つめて言う。

「わたしは、本当に何の手助けもできないの? 少なくとも、条件を付けた〈召喚〉は成功したでしょう。わたしはここにいるわ。来たからには、できることもあるのではないかと思ったのよ」

 まゆこの言葉を聞いてジリアンは驚愕した。初めて見る顔だ。

 劇的に表情が変わったのではなく、目が見開かれているだけだが、驚いているのは伝わる。濃い紺碧の瞳が彼女を凝視していた。

 深い色だ。すぐにも呑み込まれてしまいそうなほどに。
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