不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 夜の底に届くような低い声音が告げる。

「どういう呪いなのか訊いたな? ――《ただ一人を愛する》という呪いだ」

「え?」

 意表を突かれた。

 伴侶なら、ただ一人を愛するのは実に美しい結びつきだ。

「……それは、呪いなの?」

「兄弟で同じ者を愛すれば殺し合う。禁忌の相手を求めれば、すべてを崩壊させても得ようとする。その者だけを欲する。相手の気持ちが得られなくても諦めることはできない。〈ただ一人〉なのだから」

〈ただ一人愛する者〉が同じ者だった場合、親子であろうと兄弟であろうと奪おうとするのか。

 相手からの応えがなくても突き進んでしまうなら、どちらも幸せにはなれない。それでも、〈ただ一人〉を求めるということか。
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