不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 ただのヘンタイじゃないのは分かっていた。あのとき、見ていた者がいた。たまたま落ちていたマフをもってゲオルグのところへ行った者が。

 しかも、あのときは慌てていたとはいえ、ジリアンやルースの目から逃れている。

 ――動揺しても始まらない。ルースが聞いていたからジリアンにきちんと伝わるはず。わたしが慌てて動く方が拙いことになるわ。きっと。

 なにも言うなと、自分に強く言い聞かせた。

 大広間に入ると廊下では感じなかった喧騒が一気に身体を包んだ。ほっとする。

 中心では、ジリアンとカーライルが踊っていた。

『お似合いですわね』

『まったくだ。お二人が結ばれれば、今回の闘技で誰が王になっても今後の政務が安泰なるのは間違いないでしょうに』

 ちらりちらりとまゆこへ視線を向けながら囁かれる。

 ――期間限定でも、いまは彼の婚約者なんだもの。怯えて下がってはいけない。

 彼女は強く意識して一歩を踏み出す。後ろへ下がりたい気持ちを振り切った。
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