不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 ジリアンが持つ魔法の強力さから周囲の者は皆、彼を遠巻きにした。

 幼いときから守ってくれた臣下たちでさえ、『ジリアン様をお守りできる者などおりませんね』と成長した彼を見て満足げに笑う。笑って一歩遠ざかり、頭を下げで彼を一人にする。

 まゆこに頬を叩かれたときの衝撃はきっと死ぬまで忘れられない。

 手が届く近さにいた。そういう位置にまゆこは立っている。最初からずっと。

 窓から落ちてゆくのを止められなかった。

 助けることができて、生まれて初めて自分の力に感謝した。ほんの一両日の出来事の中で、どうしようもなく惹かれていく己に目を見張った。

 ようやく知る。

〈ただ一人〉だから愛するのではない。愛したから〈ただ一人〉となるのだ。

「マユコ……」

 通路を歩きながら呟きが漏れる。名前を口に載せるだけで、得も言われぬ幸福感がこみあげた。再び指輪に口づける。
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