不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 ――え……?

 その時点で体勢が入れ替えられていた。まゆこの頭は彼が先ほどまで寝ていた枕の上に置かれる。

フカフカで大きな枕は、広がったまゆこの髪を難なく受け止めた。

 彼女の上になったジリアンはなにも着ていない。

 貴族というより、高貴な男性はなにも着ずに眠るらしい。冬でもそれができるのは、暖炉の火が絶やされないよう侍従が常に気を配っているからだ。

 今夜も窓の外には降り積もる雪が見えるが、部屋の中はそれなりに暖かい。

 ジリアンが受けた身体の傷も魔法で治している。

 しかし、額の傷は浅かったから綺麗になっても、身体の方は深さがあった分痕が残っていた。

 男性の肉体など凝視したことはないから恥ずかしくて目を逸らしたが、目の端を掠めた傷痕に気が付いて改めて彼の胸のあたりを見る。

 いくつかある。よくぞこれで生き残ったものだと思われる痕が肩から斜めに走っていた。心臓の上に掛かっていなかったから、助かったのだろう。

 ――この状態で、来てくれたんだ……。
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