朧咲夜5-愛してる。だから、さようなら。-【完】
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「あ、あの……っ」
「ん。ここにいれば大丈夫だから」
戸惑う咲桜の頭を軽く撫でる。
薄暗いそこに、割れるほど大きくドアを叩く音が響いた。
「在義! いるんなら出なさい! 咲桜が攫われたんですよ!」
びくっと咲桜の肩が跳ねた。
箏子さんの声だ。
落ち着かせるように、片腕で抱き寄せた。
「箏子先生、なんです」
応対する在義さんの声も聞こえた。
箏子さんが取り乱しているのと反対に、在義さんの声は落ち着いていた。
「咲桜が! 連れ去られました! なんですかあの男は! あのような横暴な者を咲桜の婚約者にするなんてお前は何を考えているんですか!」
「流夜くんですか? 咲桜にとっては一番の相手だと思っていますが」
「あれのどこがですか!」
「咲桜が生きることに前向きになれたのは、流夜くんのおかげです。少なくとも私はそう思っていますが?」
「だからって――」