愛のない、上級医との結婚


まあ、結婚の時期は任せるからお前たちが良い時にしなさい、と言って父は微笑んだ。


けれど来週、は流石に無いだろう。
来年を聴き間違えたとしか思えないが、次の日ふと思い立って私は循環器内科の医局に行くことにした。


腎臓内科の医局と循環器内科の医局は隣同士だ。
心腎連関という言葉もあるくらいには臓器として身近だからか、医局の場所も近いのだ。


18時を過ぎた頃、開きっぱなしの隣の医局の扉から見えた姿に声をかける。


「さえちゃん!」


「あれ、樹里?久しぶり〜!」


パタパタと駆けてくるのは、同期で一緒に研修もした進藤小枝子だった。彼女もこの前循環器内科に入局したばかりの三年目医師である。


「どうしたの、誰かに用事?」


「えっと、少しさえちゃんに聞きたいことがあって。……高野先生のことなんだけど」


声を潜めて言えば、うちの科の?と聞き返されてコクコクと頷く。


「いいよ、ちょうどキリよくて帰るとこだったんだ。下でコーヒーでも飲もうよ」


そして連れ立って、一階のタリーズへ向かう。
二人でアイスコーヒーを頼んで、この時間だからこそ空いてる大きなソファに横並びで座って、私は聞きたいことを口にした。


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