愛のない、上級医との結婚


昔から私、深澄樹里(みすみじゅり)は医師である父親に大層可愛がられ、大事に大事に育てられてきた。
それは樹里が一人娘だからということもあったし、父親が子煩悩だったからでもある。


有名大学の現学長であり、かつて心臓外科医として名を馳せて居た樹里の父親は、昔から樹里の結婚相手は自分が認めた男にすると言って聞かなかった。それは自分の医師としてのプライドやら世間体やらもあったかもしれない。
けれどどうしようもなく樹里を愛して居たからだとも知っていた。


だから、父から見合いの話があった時は、来るべき時が来たのだと何の抵抗もなく受け入れた。
自分が、父の望むように医師となったのと同じくらい自然にそれを受け入れられた。
彼氏がいなかったというのももちろんあるが、そのように半ば洗脳のように育てられたからかもしれない。


まあ、結婚相手の写真を見たときに頭は抱えたのだが。


2年前、初期研修医一年目だった私が、最初の四月に回った循環器内科に彼は居た。
高野頼仁は当時後期研修一年目の循環器内科に入局したての医師だったはずだ。学年で言えば私の二つ上にあたる。


一度だけ話したことがあるが、それが逆に気まずかった。


けれど、彼の優秀さを思えば、父が彼を選んだのも納得できる。
東京の国立医大を首席で卒業した彼が、出身だからとはいえこんな地方の私立大学病院に来たのは当時それはそれは噂になったものだ。



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