愛のない、上級医との結婚

普段は大学病院の運営やら医師会のなにやらでほとんど病棟のことなど知らない理事長が高野先生のことを知ったのもその噂故だったのだろう。


「樹里、高野頼仁という男を知ってるか?循環器内科の若手だそうだが」


いきなり父に聞かれたのはそれこそ2年前、私が高野先生と初めて話してから1週間も経たない頃のことで、私はこくりと頷いた。


「優秀な人だったよ、さすが帝都大学出身だよね。心電図、期外収縮なのかVFなのかも分からない私に色々教えてくれたし、何だかんだ優しいんだと思ったよ」


ちょっとツンとし過ぎてる気はしたけれど、とは心の中だけに収めておく。


すると、そうか、と意味深に笑って父は読んでいた論文に再度目を落としたのだった。


今思えばそれが父の決め手になってしまったのだと思う。父、もうちょっと分かりやすく結婚相手としてどう思う?と聞いてくれれば私だって考えたさ。結婚相手としては、ちょっと無愛想だし冷たそうかな?なんて言ってたさ。


けれどそんな想像をひとつもしていなかった私は、その2年後、いきなり父に呼び出されて見合い写真を見せられるのだ。


お前の印象も悪く無かったよな?と。

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